ロシアのプーチン大統領が Orthodox Easter(正教の復活祭)に合わせて宣言した32時間の一時停戦は、発動からわずか30分余りで早くもその実効性に疑問符がついた。ウクライナ東部ハルキウ州では停戦開始直後に空襲警報が鳴り響き、ウクライナ軍はロシア側によるドローン攻撃の継続を報告。聖なる週末が「沈黙の時間」となるどころか、従来の不信感をさらに深める結果となった。
現地時間4月11日午後4時、停戦発動の瞬間を目前にしたハルキウの住宅地では、人々は手作りのイースターケーキや色鮮やかな卵を手に、銃弾の跡が生々しく残る聖堂へと足を運んでいた。しかし、聖職者が聖水を振りまく平和な光景とは裏腹に、その裏側では緊張が支配していた。「ロシアの言葉を信じるのか?」と、聖堂の Father Viktor が厳しい表情で語りかけるのも無理はない。この聖堂自体、全面戦争初期の爆撃で窓という窓は板で塞がれたままなのだ。そして予感は現実となった。停戦開始からわずか38分後、防空警報がハルキウの空を再び切り裂いたのである。
ウクライナ軍参謀本部は停戦発動後の土曜日だけで 469件の停戦違反 を記録したと発表。攻撃用ドローンによる19回の攻撃に加え、 275発のFPVドローン(自爆型ドローン)攻撃 がウクライナ陣地を襲ったという。AP通信の取材に対し、ウクライナ軍第148独立砲兵旅団の Serhii Kolesnychenko 通信将校は「ロシア側は停戦を遵守していない。砲撃は止まったが、ドローンによる攻撃は続いている」と断言。これに対し、ウクライナ側は「沈黙には沈黙で、攻撃には攻撃で」応じる構えを見せている。この報復の連鎖は、もはや休戦協定の体裁すら曇らせる。ロシア国防省も同様に約2,000件の違反を主張しており、まさに「言った、言わない」の非難の応酬は、過去のミンスク合意の二の舞を想起させる。
停戦協定が「見せかけ」に終わった背景には、和平交渉そのものの完全な停滞がある。米国の仲介による協議は中東情勢の緊迫化で棚上げされ、戦場での現状固定すら困難な状況だ。ゼレンスキー大統領は「この一時停戦を恒久的な平和への第一歩に」と訴えたが、クレムリンはこれを拒否。戦闘は月曜日から通常通り再開すると宣言している。
実際、停戦開始直前の金曜日夜から土曜日未明にかけて、ロシア軍は 160機のシャヘド無人機 をウクライナ全土に投入。黒海沿岸の要衝オデーサでは住宅地が直撃され、少なくとも民間人2名が命を落とした。また、南部ヘルソンではトロリーバスがドローン攻撃を受け、運転手が死亡するという惨事も発生。これらの攻撃は、いわゆる「休戦」のスタートラインがそもそも血に染まっていたことを物語っている。ハルキウ州の訓練場で部隊を指揮する指揮官 Heorhiy は「ロシアは一つを言って、別のことをする。だから常に準備が必要だ」と BBC の取材に冷淡に語っている。彼の部隊の兵士たちは戦前、電子音楽の DJ を務めていた若者たちだ。彼らは今、ドローンに爆薬を積み込み、東部戦線で「リアルな戦争」のサウンドを鳴らしている。彼らの多くは「領土の奪還」よりも「現実的な交渉」を望んでいるものの、停戦が単に兵站補充の時間となるだけであることを知っている。
このような混乱の中にあって、停戦の唯一の「成果」と呼べるのは、捕虜交換が滞りなく行われたことだろう。175人ずつの将兵が帰還し、その中には2022年の開戦当初から捕虜となっていた兵士も含まれていた。しかし、母親が我が子を抱きしめるこの感動的な場面も、「平和」へのカウントダウンを止めるには至っていない。
北部の捕虜交換現場では、青と黄色の国旗をまとった群衆が歓声を上げた。「やっと家に帰ってこれた」。4年間の捕虜生活から解放されたマキシム兵士の声は震えていた。待ちわびていた母親の Svitlana Pohosyan さんは「この歓びが最高のイースターです。でも、本当の祝いは……戦争が終わった時に訪れるのでしょう」と AP通信のインタビューに答えている。彼女の言葉は、ウクライナの多くの家庭の複雑な心境を代弁している。破壊されたアパートの残骸から、赤いカーペットが壁にめり込んだままの光景を目の当たりにした隣人の Olha さんは「私たちが欲しいのは32時間の休戦じゃない。永遠の平和よ」と静かに涙を拭った。ドローンやミサイルが日常化したハルキウの住民にとって、「安心して教会に行ける」という最も基本的な願いさえ、依然として高嶺の花なのである。
専門家の間では、この休戦の実態が、戦争の「長期化」と「膠着状態」を如実に示す象徴的な出来事だったとの見方が強い。プーチン大統領はこの停戦を「人道的措置」と称したが、その裏でドローン攻撃を続ける戦術は、戦線の凍結を拒否するロシアの姿勢を明確にしている。ウクライナ側は「戦場での抑止力」を強化するため、中東諸国へのドローン技術輸出に活路を見出そうとしているが、これは皮肉な現実だ。キリスト教の最も神聖な「復活祭」でさえ、殺戮の機械が止まらないのであれば、私たちは問わざるを得ない。 「聖なる休戦」という概念自体が、すでに現代戦争において死語となってしまったのではないか ——と。
紛争開始から4年以上が経過し、戦線は膠着している。ロシアはドネツク州での掌握範囲拡大を狙い、ウクライナは西方からの兵器供給に依存する。ゼレンスキー氏が呼びかけた「エネルギー施設への攻撃停止」や「長期的な休戦」の提案も、クレムリンによって黙殺された。現時点で、外交的な糸口はほとんど見えない。今後の注目点は、中東情勢の進展次第で米国の仲介が再開されるか、あるいは春の攻勢で双方がさらに苛烈なドローン戦争を繰り広げるかだ。この32時間に記録された何千もの「違反」は、私たちに一つの厳しい真実を突きつけている。それは、疲弊しきった民衆の平和への渇望が、いかに深くても、現実の戦場では「ドローンのプロペラ音」の方がはるかに大きな音量で鳴り響いているということだ。
