日本の新幹線を「最良の手本」と称えながら、ベトナムは総工費10兆円規模の高速鉄道計画から日本を事実上締め出した。20年にわたる日本の協力の末に起きた転換は、中国への傾斜をいっそう鮮明にしている。SNSでも議論を呼んでいるベトナム南北高速鉄道計画。その現状を整理する。
20年にわたる日本の協力
日本とベトナムの鉄道協力は、2006年にさかのぼる。当時の安倍政権は、ベトナム首相の訪日に際して南北高速鉄道を最優先支援対象の一つに位置づけた。
以降、JICAは事業化調査や技術協力を長年にわたって重ね、現行計画の事前実現可能性報告書にも資金を提供してきた。日本の支援で最大都市ホーチミンには初の地下鉄も開通し、祝祭ムードに沸いた。鉄道分野での日越協力は、順調に進んでいるように見えた。20年という歳月をかけた協力関係は、日本のインフラ輸出の象徴とも言えるものだった。
土壇場での転換——中国への傾斜
しかし、プレジデントオンラインによると、事業者選定の土壇場でベトナムは日本を事実上締め出す決定を下したという。ホーチミンの地下鉄が開通する約3週間前というタイミングでの決定だったとされる。「日本の新幹線は最良の手本だ」と称えながら、中国依存へと傾いていったと報じられている。
ベトナムの中国傾斜は、公式の動きにも表れている。2024年4月、ベトナム政府は国内初の高速鉄道建設について「中国からノウハウを学びたい」と表明したと、国営メディアを通じてロイターが報じた。
さらに2026年4月には、トー・ラム総書記の訪中に際して発表された共同声明で、中国が鉄道インフラの融資・技術・人材育成を提供すると表明。結ばれた32件の協定には、鉄道のフィージビリティスタディ(実現可能性調査)も含まれていたと、ロイターが伝えている。
数字で見る南北高速鉄道計画
計画の概要は壮大だ。首都ハノイと最大都市ホーチミンを結ぶ南北高速鉄道は、総延長約1541キロ(1545キロとの報道もある)。東京から鹿児島中央までの距離を上回る。
最高時速350キロで走行し、現在約30時間かかる南北の移動は、わずか5時間ほどに短縮される構想だ。旅客23駅、貨物5駅を設置し、完成すれば20の省・都市を貫く大動脈となる。
2024年11月末、ベトナム国会はこの高速鉄道の建設を承認した。米CNNによると、総工費は670億ドル(約10兆5000億円)にのぼる。ベトナム史上最大のインフラ事業であり、国家プロジェクトとして位置づけられている。

なぜ重要か——今後の注目点
この転換は、日本のインフラ輸出戦略にとって大きな痛手と言える。20年の協力実績がありながら、最終局面で選ばれなかったという事実は重い。
一方で、計画の先行きには不透明さも残る。巨額の事業費をベトナムがどう賄うのか、着工の時期はいつになるのかは、まだ見えていない。資金調達のスキームが固まらなければ、承認された計画も前に進まない。
また、日本企業が今後どのような形で関与できるのかも焦点だ。車両や運行システムなど、日本の技術が生きる分野が残るかどうかが注目されるが、主導権を握った中国との競争は厳しいものになりそうだ。
フリーライターの青葉やまと氏は、中国依存を強めるベトナムの動きについて「自ら“債務の罠”に陥るリスクを高めている」と指摘している。
日本の新幹線が「最良の手本」とされながら、選ばれなかった皮肉な構図。その先に待つのはベトナムの繁栄か、それとも重い代償か。10兆円プロジェクトの行方から、当面は目が離せそうにない。資金調達と着工時期をめぐる続報が出れば、本サイトでも追って伝えていきたい。

