世界最大級の暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンスから、日本時間10月30日早朝、約63億ドル(約1兆円)相当の暗号資産が不正に引き出されていたことが明らかになった。ブロックチェーン分析会社は暗号資産の盗難事件として過去最大規模だと分析している。攻撃者については、北朝鮮系のハッカー集団が関与したとの分析も出ているが、捜査当局による正式な認定はまだない。
被害は約63億ドル、半数が約20分間に集中
米ブロックチェーン分析企業TRM Labsの調査によると、ビットコインやイーサリアムなど10種類のブロックチェーン上で、計約63億6000万ドル相当の暗号資産がバイナンスのウォレットから攻撃者側に移された。資産移動の大半は約20分間に集中していたという。
内訳をみると、イーサリアム関連で約37億9000万ドル、ビットコインが1万8270BTC(約14億7000万ドル)など。TRM Labsは「複数のネットワークで正規の署名を伴う不正送金が短時間に実行されたことから、バイナンスの送金承認基盤が侵害された可能性が高い」と指摘している。
バイナンス側も被害額を約63億ドルと推計していると発表した。
北朝鮮系集団「TraderTraitor」の関与を指摘
攻撃者について、TRM Labsは北朝鮮系ハッカー集団「TraderTraitor」による犯行と「高い確信」で分析している。ブロックチェーン上の取引記録などをもとに、2025年2月に約15億ドルが流出した暗号資産取引所バイビットへの攻撃と複数の特徴が一致するとしている。TraderTraitorはバイビット事件の実行犯として米連邦捜査局(FBI)が名指しした集団だ。
別の分析会社チェイナリシスの最高経営責任者(CEO)も、過去の事件とのつながりからTraderTraitorによる犯行の可能性が高いとの見方を示したという。
ただし、バイナンスは今回の事件の実行者を特定したとは発表していない。北朝鮮関与はあくまで調査会社の分析であり、正式な認定ではない点に注意が必要だ。

エンジニアのPCが侵害か、侵入経路を調査中
侵入経路はまだ調査中だ。バイナンスの初期調査では、システムの開発・運用を担当するエンジニアのノートパソコンが侵害され、攻撃者が社内のシステム環境に入り込んで不正な出金取引を実行した可能性があるとしている。暗号資産の移動に必要な秘密鍵が流出した証拠は確認されていないという。
TRM Labsによると、イーサリアム上ではウォレットの操作権をスマートコントラクトに委ねる機能「EIP-7702」が悪用され、バイナンスのホットウォレットが攻撃者の管理下に置かれた可能性もあるという。
約30億ドルを凍結、損失は全額補償の方針
バイナンスは不正出金を受けて暗号資産の入出金を一時停止した。関係先との連携によって約30億ドル相当の資産をブロックチェーン上で凍結したと発表している。ステーブルコイン発行体のテザーやサークルも関連資産の凍結を実施したという。
利用者への対応として、バイナンスは「利用者の資金は安全だ」と強調し、緊急保険基金「SAFU」と自社資金を活用して利用者の損失を全額補填する方針を示した。入金は通常どおり利用できる一方、出金は安全対策の見直しが完了するまで停止し、48時間以内の再開を見込んでいるという。
日本のバイナンスJapanも同日、安全確認のため暗号資産の出庫を一時停止したが、国内の顧客資産への影響は確認されていないと発表した。
なぜ今これが重要なのか
バイビット事件の約4倍にあたる今回の事件は、暗号資産業界全体のセキュリティに対する信頼を揺るがしかねない。事件を受けて30日朝にはビットコイン価格が大きく下落した。同じ10月には日本でも外務省などへの不正アクセスが相次いでおり、サイバー攻撃の脅威は一段と高まっている。
今後の焦点は、凍結されなかった残りの資金の行方と、捜査当局による実行者の特定だ。TRM Labsの分析が正式な認定に発展するのか、引き続き注視する必要がある。
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